天然醸造の伝統を守り続けて170年余、お醤油の有田屋醸造

山紫水明の地、上州安中で天保三年の創業以来、いまに守り続ける醤油造りの技は頑固なまでの自然とのつきあい方の研究というポリシーに現れていた。

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江戸末期から明治・大正・昭和を彩なす人材を排出した有田屋の湯浅家

現在の社屋の中に明治のおもかげを残す木造三階建ての工場が敷地内にあるのも伝統を感じさせるが、道路を挟んだ工場の裏手にそびえ立つ煙突にも老舗の工場を感じさせるものがある。有田屋さんのシンボルともいえる赤いレンガ造りの煙突は明治時代に造られたが、大正12年9月12日の「関東大震災」のときにヒビが入り、鉄の枠をはめて補強したというから、それだけでも九十年昔の話である。その後倒壊を予防するため、途中5メートル上を切ったという。もちろん現在は使われていないが、老舗らしいシンボリックな話しである。

麹菌が造る旨味成分アミノ酸

醤油造りは、原料の大豆、小麦、麹、そして塩の仕込みで始まる。有田屋さんの場合、天然醸造を守り続けいるので、毎年2月の寒中から、3月の末まで工場内は、職人さんたちが忙しく立ち働く。醤油は単なる調味料と違い、醸造に欠かせない酵母菌の働きにより、大豆や小麦のタンパク質を分解して造り出す旨味成分・アミノ酸の力によって世界でもまれな料理に旨味を感じさせる調味料です。お醤油の味造りには、もちろん塩の良し悪しが左右し、酵母菌の醗酵状態にまで大きな影響を与えます。寒中、醤油の仕込みは、大豆と煎った小麦、麹でモロミ造りから始まる。

麹造りともなると温度管理のため、職人さんは一時たりとも気持ちを休める暇がない。出来上がった麹と大豆、小麦を混ぜ合わせる。そこへ良質な水と塩をブレンドして造っておいた塩水が出番を待っている。全部を混ぜ合わせ、大きなモロミの貯蔵槽に入れられ、醗酵過程に入る。あとはこの上州の気候風土にまかせ、自然の力が働く番である。古い蔵の中には、長年住み着いた麹菌がびっしり天井や壁に張り付いている。伝統ある醸造蔵にはこのような、永年の環境が出来上がっているから、天然醸造が可能なゆえんだろうと思う。

香りの調味料お醤油

お醤油は単なる旨味をもつ調味料ではなく、実はその香りが食べ物の味を引き立てる原因となっている。お醤油をつけた「焼おにぎり」や「焼もち」で、匂ってくるお醤油の香りはなんとも言えない。田舎へ行くと道端で売っている「焼トウモロコシ」でも、もしお醤油がなかったらサマにならない。あの香りで食欲がそそられるのである。お醤油の香りは300種類以上の香り成分が釀し出すものだそうである。醸造は二夏を越さなければ絶対ダメという有田屋さんの頑固な姿勢は、じっくり時間をかけて醗酵させるため、香りでも「昔懐かしいお醤油の匂い」がする。やはり時間をかけて醗酵・分解した賜物であろう。お醤油が世界中の料理に合うのは、実はこの香り成分がどこの国の食材とも必ず相性のよいものがあるので、世界で通用するゆえんだという。 長い時間をかけて、ゆっくり醸成したモロミが絞りに掛けられる時が来た。木製の大きな型枠で絞られるお醤油は琥珀色の液体を産み出し続ける。溜められたお醤油は、大きな年代物の杉の木樽に入れられ、さらにブレンド・熟成の時を待つ。やがて瓶詰めの工程を経て、箱詰めにされ、出荷を待つ状態となる。

明治以来のトップ・ブランド復活の心意気

キパワーソルトを使ったお醤油造りは、ある意味七代目社長にしても、『味知との遭遇・キパワーソルト醤油』への挑戦であり、冒険でもあった。長い伝統をもつ醤油や味噌の業界では、「こだわり」や「新しいものへの挑戦」を標榜しながら、意外に保守的なのである。それくらい老舗の伝統を守りながら新しいものを採用するには勇気が要る。しかし、醸造過程の検査結果は、今までにないすばらしいデータであった。県の研究所(旧醸造試験所)の技師も、モロミの段階で一舐めして絶賛したと聞いた。 当初の不安は、やがて絶大なる自信に変わっていった。それだけにブランド選びは、数あるお醤油の銘柄の中から、明治時代より、有田屋さんのトップ・ブランドであった『富國』を躊躇なく選んだ。

本邦初の商業ペース『キパワーソルト醤油』は、こうして誕生したが、まだその存在はマイナーである。しかし、お醤油としての品質には、絶大な自信がある。本物の食品が少なくなっている現代では、本来のお醤油のもつ味という点で、多くの消費者に支持して頂けるものと思う。材料の組合せや比率で、まだまだ楽しみな研究課題があると語る老舗七代目の新社長に、伝統を守りながら新しいお醤油造りにチャレンジして頂きたいという期待がふくらむ。塩の供給責任と共に『温故知新』の世界を共同で作り上げて行きたいと思う。

未味との遭遇・キパワーソルト醤油物語(PDF版)

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