『動物の食からみる現在の食生活へのヒント』
著者の中川さんは、長年上野動物園や多摩動物園の園長を努めた。動物たちとの関わり合いから観察したことを、深い洞察力と動物に対する愛情から、人間の食生活への感慨を一冊の著書にまとめた。
私たち一般人が動物園に行っても滞在時間は短く、動物たちの普段の生活時間でほんの一部を切り取ってかいま見るにしか過ぎない。しかし、動物とて生活の基本は、食物を食べることと、子孫を増やすことで生命を全うして行くことであることは言をまたない。
人間は、食べ物を好き勝手に選んで、しかも現在の日本は地球の裏側からでも食料を輸入して食べることが可能である。しかし、可能であるからといって、何でも欲望のままに食べることは何か違う気がする。人間の食性は、雑食性といわれながら歯形からいうと草食動物と同じである。肉や魚肉を食べる犬歯は、28本中の4本、つまり全食べ物中の7分の1で十分といえる。
動物たちは、昆虫からゴリラまで、進化の歴史がつながり、その食性には自然の法則があり、動物たちは自然法則の範囲内でしか食べていない。それゆえ、動物園という人為的な環境の中で、より野生に近い食べ物を与え、野生の暮らしの習慣・環境も出来るだけ自然に近く配慮することで健康が保たれるのは、人間も同じであると、この著書では示している。
「母乳」で育まれる子供とのコミュニケーション、「お袋の味」が代々受け継がれ、有害物質から子供を守る姿、動物の親が子供に教える「食育」、「ゴリラの退屈病」など現代社会と共通する現象、動物における家族のきずな、動物社会とのつながり(人間関係でなく、動物関係?)、体調が悪いときや、病気のときの自己治療(セルフメディケーション)など、人間が教えられることが非常に多いという。
人間とて、生態系のサークルの中の一生物でしかない。他の動・植物との生態系のバランスが崩れたら滅亡の道をたどることは間違いない。共存のバランスを人間の強欲がくずすことのないように、環境と共存の問題を最後に提起している。普段知ることのない動物たちの珍しい生態がよく分かり、家族で一読をおすすめ出来る一冊である。
●『動物の食からみる現在の食生活へのヒント』
★著者・中川志郎
1930年茨城県生まれ。宇都宮農林学校・獣医科卒業。上野動物園、多摩動物園など通算37年の動物園勤務。1994年、茨城県立自然博物館長に就任、21世紀に向けた新しいタイプの博物館として、宇宙、地球、自然、生命、環境問題を訪れる人たちの為に展示、尽力。その他、環境庁中央環境審議会委員、国立科学博物館評議員、WWFジャパン理事等多方面で活躍。
★定価、 1,238円(+税) 発行・芽ばえ社
