『日本の食は安すぎる』
食料の自給率や食品の国内産ということに消費者の関心が以前と比べ物にならないほど高まっている事は間違いなの事実である。
全農(全国農業協同組合連合会)でも大きく新聞広告で「私たち全農グループは、生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋になります」とか「地産地消にこだわることで、食の未来が変わります」などキャンペーンを打っているが、建前と実情のギャップを多くの消費者は感じるのではなかろうか。
「地産地消」自体は結構なことではあるが、何かキャッチフレーズがご都合主義的に利用されているのではなかろうか。化学肥料や農薬の投与が長年にわたっている農産物が、安全性において、安心して食べられるかは別問題である。
私の知っている限り、農協という組織に組み込まれる事から脱皮して「有機農法」「無農薬農業」を目指した農家は、自前の販売ルート開拓や、価格が高い安いの問題、ときには消費者エゴともぶつかり大変な苦労を強いられているのが実情である。農協傘下の普通の農家も近年はアメリカ流価格破壊ビジネスが、農産物流通に持ち込まれ輸入農産物との価格競争には苦労している。
バブルがはじけて以降の20年近く、食品は「安くてよいもの」という流れで、流通も「価格は消費者が決める」という大義名分で生産者や加工業者に低価格を要求してきた。消費者も「安くて良いのが当たり前」という消費者至上主義に悪のりして来た感がある。
しかし、良い品物、まともな生産者が真っ当なものを作り、適正な価格で売ろうと思ったらそんなに安くはできない、というのが常識でわかるはずである。本文中「安いってことは、どこかにしわ寄せがいっているてことだよ。で、どこにそのしわ寄せがいくかといえば、食品の場合は、だいたい人の身体さ」という言葉は、いみじくも著者の考えを端的にあらわしていると思う。
農協の傘下に入らず自主独立路線を貫いて来た「有機農法や無農薬栽培」を標榜してきた農家は、現在でこそグループ化したり、農業法人組合を作ったりして、生産と販売の仕事分担が出来るようになったが、今から30年位前の農家は流通ルートの開拓に苦労した。どんな業界でも「良いもの」を作れば黙って売れるなどは幻想である。学生時代から農業に携わり、青果流通の仕事を裏表から見てきた著者だからこそ、生産者と消費者を結びつけるコンサルタントに使命を感じていると思う。
まともな感覚をもった消費者ならば「安すぎる」という逆説的な言葉の意味を理解できるであろうが、本書は食品の流通について、知られざる内情も書かれている。消費者としてわきまえでおいたほうが良いことが数々あり、流通の実情について中々伺いしれないことが多々あり勉強になる。
本書以外にお薦めは著者が書いているブログがある。知る人ぞ知る有名なブログらしいが、内容豊富でこれが面白い。全国各地の生産者との交流、いろいろな食材の紹介もあるが、東京を始めとする全国の料理や料理人のブログは、「ミシュランガイド」より親しみやすく、論評は料理に対する造詣の深さを感じさせる。単なるグルメブログとは一線を画するものと思う。カメラにも凝っていて、料理写真としては秀逸、ただ、大きい写真だけに、すぐ開かずちょっと重いのが玉にキズ。料理の写真はプロでもきれいに撮るのは難しい。写真だけを見ても楽しいブログである。
★著者・山本謙治
1971年愛媛県生まれ。慶応義塾大学環境情報学部、同大学院修士課程卒。
在学中に、畑サークル「八百藤」設立、キャンパス内外で野菜を栽培する。
㈱野村総合研究所、青果流通の㈱シラフを経て、2005年㈱グッドテーブルズ
を設立。農産物流通コンサルタントとして活躍中。
著書『やまけんの出張食い倒れ日記 東京編』アスキー社
『実践、農産物トレーサビリティ』誠文堂新光社
★定価、800円(+税) 発行・講談社新書
