『野菜が壊れる』
このところマスコミも消費者も食品に関わる事件が輸入食品にばかり目が行っているようだこが、それでは国産品なら大丈夫かというと「灯台もと暗し」輸入食料の陰に隠れて問題が顕在化しないだけで、従来からの安全に関する問題はまだ進行形であることが本書によって明らかにされている。
では、何が問題なのかというと、一つには野菜の栄養価が、「日本食品標準成分表」のデータで平成12年(2000年)では昭和25年(1950年)比ほうれん草でビタミンC4分の1、鉄分で7分の1、昭和57年(1982年)比でもほうれん草ビタミンC35%減、鉄分で半減となっいます。60年前の野菜と見た目は同じでも栄養価は落ちている。高度成長時代の昭和57年(1982年)比でも、ビタミンC4で40%減、鉄分で2分の1ですから、農土として土が死にかけているという事です。他のあらゆる野菜にしても、栄養価がなくなっているのはもちろんですが、年配の方にとっては、香りも味わいも昔の野菜とすっかり違ってしまったと感じている方は多いのではないでしょうか。
これは何かと言ったら戦後の農業に導入され大量に使われた化学肥料が原因ですね。化学肥料を使用すれば土の中の自然生態系が破壊され、害虫が増え、いろいろな作物の病気が現れるから農薬を使用するという悪循環に陥ります。
著者は、大手の農機具会社で農業機械技術や營業企画に携わった経緯から、全国の農家の実情を把握していることがわかります。戦後の農家は、農協という組織によって技術指導、産地指定、種の購入、化学肥料、農薬、農業機械の購入、出荷、販売に至るまで組み込まれてしまいました。それどころか、生活用品、家電製品、自動車、保険、旅行にいたるまで気がついたときには多額のローンなどでもガンジガラメされていたわけです。
ではそのような仕組みは農協自体が考え出したのかというと、その背景には日本の戦後高度成長時代、産業構造がもたらした国策の一環であった事が本書から読み取れます。石油化学工業の副産物、自動車産業、製鉄工業の産業廃棄物が化学肥料の原料です。つまり、これらを肥料として売れば一石二鳥の利益とコストダウンになる産業側と、廃棄物処理場として利用される農業という図式が国策として描かれたと読み取れます。
長年日本の農地を化学肥料漬け、農薬まみれにして行き着いたところの一つが亜硝酸態窒素の問題です。野菜の殘留亜硝酸塩については、
で紹介しています。
本書は、その影響が日本の酪農、畜産にまで深刻な影響を及ぼしていることに言及していますが、最終的には国民・消費者がどれだけ深く関心を持ち、どのように対応するかにかかっていると思います。「まだ、間に合う」と結論づけていますが、輸入食品の危険性をあげつらう風潮に流されず、自国の実情も「脚下照顧」、国内農業の現状を知り、将来を展望する上で参考になる一冊と考えます。
★著者・新留勝行
1943年鹿児島県生まれ。農業研究者、鹿児島県立南大隈高等学校卒。
鹿児島県立拓殖講習所へ入所アメリカへ農業研修生として派遣さる。
株式会社ジェム設立、同社代表取締役会長。
★定価、700円(+税) 発行・集英社新書
