『養生の実技』
長い間続いていた民放の深夜番組で五木さんのトーク番組を時々聴いたことがあります。日頃の作品のイメージとは、 ちょっと違和感を感じる夜のムードたっぷりのテーマ音楽で、ミスマッチな感じのする出だしでした。この作家の最近の一連の作品には 「大河の一滴」の人生を感じさせるものや「気の発見」のように東洋医学を相当理解していることを感じさせるものがありますが、今回 「養生の実技」という本を出しました。「養生」という言葉は若い世代の方から見るとカビのはえた古くさい言葉のように思えるでしょう。 最近の健康法ブームや高齢化社会の世相に作者自身の体験から得た「五木流・平成養生訓」が述べられています。
意外なことに五木さんのご両親とご兄弟は早世だったようです。それに自身の腰痛との長い付き合いや、体の様々な不調があったとは、 この本で初めて知りました。それで五十を過ぎてからの人生をどう過ごすかということは大きな命題で、 自分自身に見合った養生法の感じたものを著したのが本書です。「人間は死のキャリアとして生まれてきた。死を病院で救うことはできない。 そうであるならば、病院に行かず自分で延命する道はないのか。日頃の用心がまず第一。治療では手遅れだ。治療より養生。 これからの健康を考える上でのキーワードは、まちがいなく養生である」という後書きには共感を覚えます。
書かれている内容で感じるのは、古来からの健康法や養生法には「行」であったり、 凡人には出来そうもないことが書いてあったりしますが、本書では「体験と偏見による養生の実技100」というものが述べられていて、 身の丈に合せた健康法という感じがします。例えばよく噛むことの重要性は知っていますが、実生活で一口100回というのは、 なかなかしんどいものがあります。「養生の実技100」では冒頭「よく噛んで食べるが、週に一度くらいは余り噛まないで呑みこみ、 消化器を目覚めさせる」とあり、ほっとする方も多いことでしょう。若者に限らず「冷たいもの中毒」の弊害はおそるべきものがありますが、 「冷たいものは飲まない。飲むときは口の中で噛んでから飲む」とあり、私も常々実行しやりやすい事柄です。
特に呼吸法については蘊蓄を吐露されていますが、前著「気の発見」と併せて読むとよく理解できると思います。要は 「呼吸法も楽なほうがいい」という事で、ガチガチな考え方に陥りやすい呼吸法についても五木流養生術の極意がかいま見えます。 日頃の心がけにしても「耳をすまして体の声を聴く」=「身体語をマスターする」「体については自己責任が心地よい」= 「安易に病院にたよらない。医学を尊敬しつつ、自己責任を忘れない」など現代社会に対する警句ともとれる言葉が散りばめられています。
「養生実技100」の中から、ご自分に合った養生法をさらにピックアップしていったら、 いま実行している健康法の取捨選択を決めるモノサシともなるでありましょう。わたくし的には「養生」というなじみがなく、 古くさいと受け止められがちな言葉や考え方が、これを機によみがえるならば望外の喜びです。
発行・角川書店(角川oneテーマ21) 定価・686円(税別)
