食の匠たち-8 醤油造り伝統の技を守る

創業天保三年、170年余の伝統を受け継ぐのが、㈱有田屋工場長の萩原恒男さんです。長い歴史の中で何代目の工場長かは数えたことがないそうだが、入社44 年目の大ベテランではある。顔のしわひとつにも長年、麹造りや、もろみの仕込みに全精力をつぎ込んできた匠の顔そのものである。
醤油造りは、代々の職人さんから受け継がれる伝承技術ではあるが、もちろんその時、その時でいろいろな技術改良は行われてきた。しかしながら、有田屋で現在も守られているのは「天然醸造」で、人工的に温度、湿度を加えず、上州の気候、風土に任せた醸造法である。
それだけに、毎年均等な品質の醤油造りには、一番腐心するところだという。それゆえ、自然に気象、気候に対するセンサーが鋭く磨かれ、毎日の天気模様にきめ細かなアンテナを張りめぐらしている事が言葉の端はしに窺われる。
醤油造りの要(かなめ)は「手入れ、櫂入れ、火入れ」といわれるが、「手入れ」は麹造りの管理を意味している。その要点は、通風管理と温度管理だという。麹造りが始まると、3日間くらいは、不眠不休の気が抜けない時が続くという。もちろん、麹菌にの中に雑菌が入り込んで汚染されないよう、麹造りの装置には、清潔が保たれるよう細心の注意を払いながら作業が進む。
あらゆる工程管理での技術を維持し、改善し、伝統として次世代に伝えて行くのが工場長の責任と萩原さん。醤油はお酒と違って季節を問わず仕込めるのが一般的だが、「天然醸造」の伝統から有田屋では、仕込み時期も、寒仕込みが行われている。
どうしても追加の仕込みをしないと間に合わないときは、秋の仕込みもするという。理由は、低温時の仕込みは、もろみの原料利用率が高いという利点を活かしてのことである。合理化や省力化は進めながらも、古き良き伝統技術は着実に、次の食の匠たちに受け継がれて行くに違いない。
今回、キパワーソルトという伝承技法によって造られた塩を使っての醤油造りは、有田屋にとっても、新しいチャレンジだったと語る。創業以来守り続けてきた『富國』というトップブランドで発売決定したのも、その思い入れの現れであると感じる。
いまや「ソイソース」といえば世界で通用する優れた調味料として脚光を浴びる醤油だが、すぐれた技術の伝承を守り続けている醸造メーカーが生き残れるかというのは、消費者の意識と理解にかかっていると考える。